配偶者居住権に関して気になること

長期配偶者居住権を設定するときは遺贈による必要がありますが(民法第1028条第1項第1号)、その対象となる建物を遺言によって譲渡する場合、遺贈によってする必要があるのか、特定財産承継遺言ではだめかという点について頭を悩ませています。

 

立案担当者は、長期配偶者居住権の設定が遺贈による必要がある理由として、主に以下の2点を挙げています(堂薗幹一郎、神吉康二編著『概説改正相続法』(一般社団法人金融財政事情研究会、2019))。

1 特定財産承継遺言による取得を認めると、配偶者が配偶者居住権の取得を希望しない場合にも、配偶者居住権の取得のみを拒絶することができずに、相続放棄をするほかないこととなり、かえって配偶者の利益を害するおそれがあること

2 配偶者居住権の取得には、一定の義務の負担を伴うことになるが、一般に遺産分割方法の指定について負担を付すことはできないと解されていること

 

まず、2については、負担付相続させる遺言が広く用いられていることからすると、それを理由とすることに若干の疑念があります(とはいえ、このあたりはリサーチ不足なので、時間があるときに深く検討したいと思います)。

 

そうすると、実質的には1の理由が大きいのではないかと思いますが(実際、部会資料15でもその旨が指摘されています。http://www.moj.go.jp/content/001209669.pdf)、そうであれば、この理由は長期配偶者居住権の対象建物を譲渡する場合にも妥当するため、遺贈による必要があるという結論になる気がします。

 

とはいえ、遺言執行者をつけた遺贈と特定財産承継遺言の違いはさほど大きくなく、遺贈でなければならないとしても、遺言の解釈によって救済される可能性が高いので、とりあえず遺言執行者をつけておけば、特定財産承継遺言であってもあまり心配する必要はないのかもしれません。