法学教室2020年7月号
以下、雑多な感想です。
1 巻頭言
巻頭言といえば、成仏理論とかエッセイ的なものであるのが通常ですが、今回の巻頭言は債権法改正の契約不適合責任に関する改正に疑義を示す内容でした。
しかし、可分な給付の一部不履行については不適合責任に基づく追完請求権及び代金減額請求権を認める必要はないという指摘はもっともであり、大変勉強になりました。
2 民法の重要論点を解きほぐす
理論的で難しい論文もありましたが、概ねまとめとして有用だったと思います。
相続による権利証系の対抗要件については、動産の相続の問題は改正によりかえって余計な論点を顕出させてしまったように思います。
不当利得の類型論については、類型論でどこまで裁判所を説得できるのかはやや疑念があります。要件事実的には出てこないものの、背後にある考え方として考慮されるのではないでしょうか。
譲渡制限特約も債権譲渡担保を活用しやすくするために、かえってごちゃごちゃしてしまった改正のように思います。
保証人に対する情報提供義務は、よくまとまっていて学生向けの論文としてはとてもよかったのではないでしょうか。
委任と代理は、両者を分離することなく全体構造を考えるべきという著者の結論には納得できますが、そのことを議論することで実務的にどれだけのインパクトがあるかといわれると若干の疑念があります。
純経済損失と不法行為法は、最判平成19年7月6日は大学3年生のときにゼミで扱いましたが、結論としてよくわからなかったという苦い思い出のある裁判例です。
不法行為と契約責任の関係、保護法益などいろいろな問題がありますが、やはりこの事件は耐震偽装問題が盛んに取り上げられていた時期の判例ということは忘れてはならないのではないかと思います。
また、最判平成31年3月7日判決は、この論文で初めて知った判例でしたので、大変勉強になりました。
3 国際自動車事件(第二次上告審)
最初に読んだときは、法システム的に仕方ないとはいえ、5年もかけて第二次上告審までやるような話かというのが素直な感想。
ただ、中身を見てみると、使用者側がそれなりに考えて制度設計をしていて、なかなか難しい事案だったなという感想を抱きました。
ただ、第一次上告審の後の差戻審が、割増賃金の控除により、通常の労働時間の賃金部分がなくなるという点を指摘できていれば、このような最高裁判例は引き出せなかったかもしれませんね。
論文は難しい内容を分かりやすくまとめていて、大変良かったと思います。
4 スポーツ選手とパブリシティ権
ピンクレディ事件が有名ですが、シルエットにもパブリシティ権が認められうるという指摘は勉強になりました。
5 憲法連載
学生のころから思っていたことですが、基準を作るということは硬直性を容認するということだから、裁判実務は比例原則でフリーハンドにやりたがるだろうなと思いました。
6 行政法連載
教科書を再読しているようで、復習にはとてもよいですね。
7 民法連載
連帯債務は、影響関係、求償関係と分けると、最初は理解できるんだけど、問題を考えようとすると、ぐちゃぐちゃになりがち。
債権法改正により、不真正連帯債務をどう位置付けるかは難しい問題ですね。
ところで、絶対的効力自由って「性交爽快コンドーム事故ごめん」(請求、更改、相殺混同、時効、免除)で覚えていましたね。債権法改正で、請求、時効、免除がなくなるのは残念です。
8 会社法連載
さすがに司法試験に受かっただけあって、このレベルの問題は、きちんと解けて安心しました。
9 民訴連載
最後の重複訴訟の禁止と相殺の抗弁に関する工夫はなるほどと思いました。
10 刑法連載
事後強盗罪の共犯の処理は悩ましいですね。裁判実務は身分犯説なんでしょうけど、のぞき込むと深淵が広がっている分野で、あまり好きではないです。
11 刑訴連載
平成17年判例の丁寧な解説に感動しました。
一番、勉強になった指摘は、321条1項3号と321条3項の重畳適用の議論で関連性が出てきたところ。この視点は全くありませんでした。
あと、最判平成27年2月2日は知らなかった。平成17年判例があるのに、これをやってしまった第一審の裁判官は相当恥ずかしいだろうなと思いました。
12 演習憲法
一番最初に気になったのは、公民館が写真を掲載する義務があるかってところがひっかかりました。
理論的にはこういう相談は面白いけど、間違いなくペイしないので、受任する人は限られるだろうなぁというのが素直な感想。主題規制と観点規制は初めて知りました。
13 演習行政法
行手法36条の2が設けられたことをこの連載で知りました…
14 演習民法
94条2項は忘れていても、なんとなく覚えていますね。法定取得説は、民法というよりは要件事実論で勉強した記憶があります。
15 演習商法
私が受験した頃は、経営判断原則は、前提については審査密度を高めて、判断については緩く審査するというのが主流だったように思いますが、最判平成22年7月15日は両方とも緩やかな基準で判断すると読むのですね。
16 演習民訴
もはや忘却の彼方ですね…
17 演習刑法
クロロホルム事件も細かいところは覚えていないですね…
18 演習刑訴
警備犯罪の現行犯逮捕に関する条文(217条)に気付きませんでしたね…