債権法改正と弁済禁止の保全処分

民事再生手続において、債権者は、弁済禁止の保全処分の期間中に生じた債務不履行を理由として解除することはできないと解されています(最判昭和57年3月30日参照)。
その理由付けについては、通説的見解は帰責事由がないと説明しています(伊藤眞『破産法・民事再生法[第4版]』[2018]153頁)。
しかし、債権法改正により解除に帰責事由が不要とされたため、今後もこのロジックを維持できるかという点が問題になるとの指摘に触れました(江頭憲治郎『商取引法[第8版]』[2018]228頁)、蓑毛良和「倒産手続開始と解除権」自由と正義2018年7月号24頁))。

 

そもそも、弁済禁止の保全期間中(民事再生開始前)に解除されてしまった場合、どのような支障が生じるのでしょうか。
特に問題が生じるのはファイナンスリースによって調達した物件が事業に不可欠なものであるときだと考えますので、まずはファイナンスリースについて簡単にまとめておきます。

ファイナンスリースは、倒産手続において別除権として処遇されています。
その担保の対象は、所有権説(所有権留保又は譲渡担保権)と利用権説(利用権を対象とする質権又は譲渡担保権)で争いがあり、実務的には利用権説が優勢であるとされています。
どちらの説に立つにせよ、民事再生手続においては、手続外で別除権を行使することが可能であるため、再生債務者は、再生手続開始後、対象物件を引続き利用できるように別除権協定の締結を目指すことになります。

 

仮に、弁済禁止の保全処分の期間中の不履行により解除が許されるとすると、事業に不可欠なリース物件が開始決定前に流出してしまい、事業継続が困難になることが考えられます。
つまり、解除された場合、再生債務者側が解除の効力を争って占有を継続するとしても、将来的に、強制執行によりリース物件が回収されてしまうのであれば、再生計画を策定することは困難であり、手続廃止が見えてくることになります。
このような事態を防ぐため、再生債務者側としては担保権実行中止命令(民再31条1項)を発令してもらい、別除権協定締結に努力するという対応が考えられます。
しかし、非典型担保に対する中止命令であることに加え、解除によって即座に担保権が実行されるため、発令する際にそれなりのハードルが存在すると予想されます。

 

そうすると、端的に解除(別除権の実行)を止めるロジックが求められることになります。
そして、このロジックの1つとして、弁済禁止の保全期間中の債務不履行が問題になると思われます。


この点、追完の機会を与えるという催告の機能に照らせば、保全期間中は債務者の履行が禁止されている以上、開始決定前に催告解除しても相当な期間が満了していないとして、解除を否定する見解があります(蓑毛良和「倒産手続開始と解除権」自由と正義2018年7月号24頁)。
弁済禁止の保全処分の期間が1~2週間程度とされている東京地裁の運用に照らせば、かなり説得力のある見解であるように思います。
しかし、この見解に立つ場合、倒産解除特約と同様の趣旨(最判平成20年12月16日参照)から、無催告解除特約は危機時期に無効になると理解することになると思われますが、平時と危機時期をどのように切り分けるのかという問題が残るように思います。
これは所有権留保における対抗要件の要否(最判平成22年6月4日)という議論とも重なるものであり、なかなか興味深い議論であるように思います。